終身雇用・年功序列が崩壊し、企業に依存して生きていくという生き方が否定された反動で、ここ数年は「起業すべき!」という書籍が過剰に増えているのが非常に嘆かわしいことです。
「日本は起業家が少ない!」
「起業家育成が遅れているせいだ!」
と声だかに叫ばれ、起業家を生み出そうという動きがドンドン進んでいます。
しかし、そういった情報発信をする人に限って企業に依存するリスクは叫ぶくせに、「起業」に関わるリスク自体は教育されないのも事実。
ネットや書籍を見ていると明らかに価値観が偏っています。
・大企業から独立した「起業家向けのコンサルティング」を生業にしている人がビジネス書を書くことが多い
・ネットやブログを一生懸命やって情報発信を続けるのは、ローコストで集客や人脈作りをしたい個人の起業家(でその多くは個人起業家から売上をつくるWEB制作やネット広告や勉強会・交流会などの企画企業)
ようするに、自分達の仲間を増やした方が売上が上がると考える人たちが、自分達の生き方の正しさを声高にさけびつつ、また未来の見込み客をつくるために、起業家を増やしていこうとする連鎖が起こっているわけです。
別にこの流れ自体を否定するつもりはありません。
私も大学で中小企業論を学んでいるので、中小企業がイノベーションを起こす可能性や起業家の重要性は認識しています。
しかし、起業のリスクや恐ろしさを伝えず、覚悟を持たず、ただ企業づとめが嫌で逃げるようにして起業している人が多いのも事実のように思います。
企業の存続についてのデータや通説は以下の通り。
中小企業庁のデータでは20年後には50%が廃業です。
ただ、このデータは統計の性質上、従業員が4名以上で製造業寄りなので実態とは違います。
起業の難しさを表す通説は
設立1年=40%
設立5年=15%
設立10年=6%
設立20年=0.3%
設立30年=0.02%
ですが、現実にはこれも当てはまっていないと思います。
あまりにも現実と乖離しているので、この数字のリアルを認識していないことが多いのではないかと思います。
今時の起業は飲食店などのコストのかかる起業よりも、ネットでローリスクで自宅でやるタイプが多いので、廃業だけはしない生き残り組みがかなり多いので数字が変化していると感じます。
おそらく、今のネット系を活用する起業の仕組みだと、生存率は10年では50%くらいはあると思います(本人が十分な収入を得ているか、満足しているかはおいておくとして)。
ただ、今後大きな問題になってくるのは、設立20年からの急激な廃業増と生活苦だと思います。
ローコスト・ローリスクで自分の身体ひとつで事業をしていれば、自分が病気になれば即売上ストップです。身体がおいつかなくなることにより、事業継続が難しくなる可能性が高い。
また自分や家族の生活コストが高まっていくのに比例した所得を得ることが難しくなる。
また、長年身一つで事業をしていれば、確実にノウハウやスキルの進化も後手にまわりやすい。
その段階では大手企業との競争に負ける可能性も多くなる。
もう言葉としては死んだように思いますが、ノマドワーカーと呼ばれる人や個人事業主の方は、上記のような20年後、30年後のリスクはきちんと考えているのでしょうか?
こうしたリスクから目を逸らして、今を謳歌していても、最後に待っているのは人生の失敗。
その結果、日本にかえって起業家精神がなくなっていくリスクの方が怖いくらいです。
未来のリスクを見ない起業は色々な意味で問題が多い。
最近思うことは、日本に必要なのは「のれん分け」的な起業なのではないかということ。
母体の企業との良好な関係とサポート関係をうけつつ、自身の起業家精神によりビジネスを成功させ、新しいチャレンジはその次のステップで取り組むことができる。
親会社は財務や様々なノウハウなどを長期的にサポートする他、行き詰ったときには引き取ったり店じまいの段取りまでしてあげるなどなど、メリットが多い。
元々、開拓民であるアメリカと同程度の起業家イズムを農耕民族に求めるのは難しいとすれば、これから必要なのは日本的な起業のあり方のような気がします。
そんなことを最近出会った経営者様の経営スタイルから感じました。
Tweet |